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大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)23号 判決

控訴人(原告) 地村常太郎

被控訴人(被告) 和歌山県知事

補助参加人 森田明子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人が昭和五三年一二月一九日補助参加人に対してなした農地法二〇条一項による許可申請のあつた農地の賃貸借の解除についての許可処分は、これを取消す。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人及び補助参加人

主文同旨

第二主張及び証拠

次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  原判決二六枚目表一一行目の「考慮すると」の次に「結果的にみれば原告が直接森田の意思を確認しておれば爾後の紛争が生じなかつたであろうと言うことはできても、直接確認しなかつたという過失をもつて」を加える。

2  同二六枚目裏一行目の次に「農地法二〇条二項一号は、賃借人の非難すべき行為を問題にしており、本来過失は問題外の筈である。」を加える。

3  同二七枚目表六行目の次に行を変えて「ホ 森田は当時本件農地の値段を一〇〇〇万円程度と考えていたようであるが、これが客観的な相場と言う訳ではなく、本件農地には賃借権がついており、その価値を考えると到底森田の考えているような値段にならない。」を加える。

4  同二八枚目裏九行目の「もとでは、」の次に「たとえ転作が別件訴訟提起後であつたとしても、それをもつて賃貸借契約解除の理由とするのは余りにも酷であるし、」を、同一〇行目の「ものを、」の次に「別件訴訟で敗訴判決が確定し」を、それぞれ加える。

5  同二九枚目表四行目の「ではなく、」の次に「別件訴訟提起前」を加える。

甲一三七号証(写)を提出。

丙一号証の成立を認める。

二  被控訴人

1  原判決一三枚目裏一〇行目の次に「なお、原告の右行為は単なる過失による『信義に反する行為』ではなく、道子の代理権に疑念を有しながら、容易に確認できた森田の意思をことさら確認することなく、道子を代理人として本件売買契約を締結し、森田の本件農地の所有権と賃貸人としての地位を失わせようとしたもので、より積極的な『信義に反する行為』である。」を加える。

同一九枚目表一〇行目の「解除」を削る。

2  甲一三七号証の原本の存在とその成立は不知。

三  補助参加人

丙一号証を提出。

甲一三七号証の原本の存在とその成立は不知。

理由

一  当裁判所も、本件請求は理由がなく棄却すべきものと考える。その理由は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三三枚目表三行目の「(七)」を「(六)」に改める。

同一一行目の「八号証」の次に「三〇号証」を加える。

2  同三三枚目裏二行目の「その一部」の次に「一二六号証、一二八、一二九号証、一三一号証、一三四号証、乙六、七号証、丙第一号証」を加える。

同三行目の「四四」を「四五」に改める。

同四行目の「一〇四号証」の次に「乙五号証(一部)」を、同九行目の「四九号証」の次に「官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分の成立は前掲乙五号証によつて認められる乙三号証、証人地村敏子の証言(一部)及び弁論の全趣旨」を、それぞれ加える。

3  同三七枚目表九行目の「弁護士」から一〇行目までを次のとおり改める。

「同年六月初旬ころ原告に電話で、上北夫婦が本件不動産を勝手に売つてしまつたことを承認できないから訴訟をするつもりである旨伝え、同年七月初ころ上北夫婦を大阪地方検察庁に告訴した。その後同年八月大阪弁護士会法律扶助協会の扶助決定を受け、末永善久弁護士に本件不動産についての原告との紛争処理を委任した。

7 末永弁護士は同年九月ころから一一月まで原告と交渉したが、森田の納得する解決が得られなかつたため、同年一二月一一日原告らに対し本件売買契約の無効を理由として本件不動産の所有権移転登記等の抹消登記手続を求める別件訴訟を和歌山地方裁判所妙寺支部に提起した。その間、原告は大阪地方検察庁で前記告訴事件について事情を聴取されたことがあつた。

8 原告は本件農地を森田の先代徳治郎から賃借して以来約四〇年にわたり水田として利用してきたが、同年一一月一〇日頃本件農地に八朔を植え付け、昭和四六年四月一九日かつらぎ町農業委員会へ米生産調整奨励補助金の交付申請をした。

9 別件訴訟について、昭和四八年二月五日和歌山地方裁判所妙寺支部で森田勝訴の判決が言渡され、その判決は昭和五〇年一月二八日大阪高等裁判所でも維持され、同年一〇月一四日最高裁判所も原告の上告を棄却する判決を言渡し、森田勝訴の判決が確定した。森田は昭和五一年一〇月三〇日本件農地を見に行つたところ、八朔畑になつていることを知り、直ちに原告方を訪れ原告に口頭で水田を八朔畑に変えたことに抗議し、更に昭和五二年一月二一日付書留内容証明郵便により、原告が本件農地の利用に関し背信的行為を重ねてきたため信頼関係が完全に失われ賃貸借契約を将来にわたつて継続することは耐えられないことを理由として、本件農地を明渡してほしい旨要求する書面を送付し、そのころその書面は原告に到達した。しかし、原告は森田の右抗議・要求を無視し、八朔畑への転換について承認を求めたり、水田に復旧する旨の意思表示をしないまま、従来通り本件農地を八朔畑として使用した。

10 森田は前記認定のとおり従来から病弱で医療扶助等により治療を受けており、働くことができず、昭和四五年七月から昭和五一年五月まで生活保護を受け、その後は本件建物による月五万円程度の家賃収入しか収入がなく、扶助を受くべき身寄もない。森田は右家賃収入だけでは生活が困難なので、本件農地を宅地に転用し、これを担保にして借入金により自己の住居や貸家を建て、その家賃収入によつて将来の生活を維持したいと考えている。なお、本件農地には現在大阪弁護士会が立て替えた別件訴訟の訴訟費用等について大阪弁護士会に代つて末永弁護士を債権者とする抵当権設定登記がなされている。一方、原告は明治三九年生まれで、長女地村敏子夫婦と共に本件農地以外に三六五四平方メートルの自作地と一二五九平方メートルの小作地を耕作するかたわら、敏子の夫正次がブロツク工として働いており、本件農地を耕作しなくても、兼業農家として十分生計をたてることが可能である。また、本件農地は農業振興地域の整備に関する法律八条二項一号に規定する農用地区域外にある。」以上のとおり改める。

4 同三七枚目裏一行目の「一〇七号証」の次に「乙五号証」を、同「記載」の次に「及び証人地村敏子の証言」を、同三行目の「一〇九号証」の次に「一二六号証、一二八、一二九号証、一三一号証、乙三号証」を、それぞれ加える。

5 同三八枚目表八行目の次に行を変え次のとおり加える。

「また、森田が本件売買契約について上北夫婦を大阪地方検察庁に告訴し、末永弁護士に依頼して原告と交渉を開始し、原告も大阪地方検察庁から事情を聴取され、森田が本件売買契約を認めず本件農地等の所有権の回復を求めていることを知りながら、約四〇年にわたり水田として使用してきた本件農地を八朔畑に転換し、更に別件訴訟で原告敗訴の判決が確定した後に森田から八朔畑転換について抗議を受け、原告の背信的行為により本件農地の賃貸借契約を継続することは耐えられないことを理由とする本件農地明渡要求書面を受け取りながら、原告は森田の右抗議・要求を無視し何らの措置をとらず放置したもので、この原告の八朔畑転換についての一連の行為も右信義に反する行為に当たるというべきである。

のみならず、仮に原告の前記認定の行為が農地法二〇条二項一号の信義に反する行為に当たらないとしても、原告の右行為、前記10で認定した森田と原告双方の事情、その他前記認定の一切の事情を考慮すると、本件においては、同項五号の正当の事由がある場合に当たるとみることができる。」

二  してみると、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山忍 矢代利則 河田貢)

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